アブセンティーズムの原因分析は、健康診断・勤怠・ストレスチェック等の多層データを組み合わせて欠勤の真因を特定し、根拠ある施策につなげる手法です。思い込みによる施策では効果が出ないため、データに基づく原因特定が改善の第一歩になります。
アブセンティーズムの原因分析とは、従業員の欠勤・休職(アブセンティーズム)が発生する背景要因を、複数のデータソースを用いて体系的に特定・可視化するプロセスのことです。ボディパレットでは、健康経営の効果を可視化するうえで「まず測り、次に原因を突き止め、それから施策を打つ」という順序を重視しています。
この記事でわかること
- アブセンティーズムの定義と、プレゼンティーズムとの違い
- 「思い込み施策」が失敗する3つの典型パターン
- データ駆動で原因を特定する6ステップの具体的な進め方
- 分析結果を施策に落とし込む5つの実践アクション
- 原因分析を進める際に陥りやすい注意点と落とし穴
※この記事の内容は2026年3月時点の情報に基づいています。
この記事は、ボディパレット編集部が健康経営支援の現場知見をもとに執筆・監修しています。
なぜアブセンティーズムの原因分析が企業に必要なのか
アブセンティーズム対策は「原因を特定してから施策を打つ」企業と「原因不明のまま施策を導入する」企業で、改善効果に大きな差が出ます。経済産業省の調査によると、日本企業におけるアブセンティーズムの平均日数は年間2.6日であり、この数字に1日あたりの平均人件費を掛けると、100人規模の企業でも数百万円単位の生産性損失が生じている計算になります(出典:経済産業省「企業の健康経営ガイドブック」)。
さらに、横浜市立大学と産業医科大学の共同研究(2025年5月発表)では、メンタル不調に起因するプレゼンティーズムとアブセンティーズムの損失額が日本全体で年間約7.6兆円(GDPの約1.1%相当)に達すると推計されています(出典:横浜市立大学 2025年6月発表)。このうちアブセンティーズム単独の損失は約0.3兆円ですが、プレゼンティーズムからアブセンティーズムへの移行(体調を押して出勤→悪化→長期休職)を含めると、実質的な影響はさらに大きくなります。
こうした損失を抑えるために必要なのが、「なぜ欠勤が発生しているのか」を個別具体的に特定する原因分析です。全社一律のメンタルヘルス研修や運動施策を導入しても、自社の欠勤の主因がそこにない場合は費用対効果が低くなります。原因分析は「限られた予算を最も効果の高い施策に集中させる」ための前提条件です。
アブセンティーズムとは何か──定義・測定指標・プレゼンティーズムとの違い
アブセンティーズム(Absenteeism)とは、病気やケガ、メンタル不調などの健康上の問題により、従業員が欠勤・遅刻・早退・休職している状態を指します。勤怠データに数字として現れるため、プレゼンティーズムと比べて把握しやすいのが特徴です。
経済産業省の「健康投資管理会計ガイドライン」では、アブセンティーズムの測定方法として次の3つが推奨されています。
| 測定方法 | 内容 | 精度 |
|---|---|---|
| ①従業員アンケート調査 | 「昨年1年間に病気で何日仕事を休んだか」を自己申告で回答 | 最も正確 |
| ②欠勤・休職日数の集計 | 人事データから欠勤・休職日数を集計 | 有給休暇中の病欠を把握できない可能性あり |
| ③疾病休業者数・日数 | 30日以上の疾病休業者を把握。診断書から休業期間・疾病種類を記録 | 長期休職に限定されるため過小評価のリスクあり |
一方、プレゼンティーズム(Presenteeism)は「出勤しているが心身の不調でパフォーマンスが低下している状態」を指します。厚生労働省保険局の「コラボヘルスガイドライン」によると、健康関連総コストの内訳はプレゼンティーズムが77.9%、医療費が15.7%、アブセンティーズムが4.4%です。損失額だけを見ればプレゼンティーズムの方がはるかに大きいですが、プレゼンティーズムが悪化すると最終的にアブセンティーズム(長期欠勤・休職)に移行するため、両者をセットで分析・改善することが重要です。
思い込みの施策が失敗する3つのパターン
原因分析を行わずに「よくある施策」を導入すると、費用と労力を投じても欠勤率が改善しないケースが頻繁に発生します。ボディパレットに寄せられる相談でも、以下の3パターンに該当する企業が多く見られます。
パターン1:「メンタル不調が原因だろう」と決めつけてメンタルヘルス研修だけを実施する
メンタル不調はアブセンティーズムの主要因の一つですが、実際にデータを分析すると「長時間残業が集中する特定部署だけ欠勤率が高い」「腰痛・肩こりによる通院が欠勤の主因だった」というケースは珍しくありません。メンタルヘルス研修が無駄になるわけではありませんが、主因がメンタル以外にある場合、研修だけでは欠勤率は下がりません。
パターン2:「運動不足が原因だろう」と決めつけてジム法人契約を導入する
福利厚生としてのジム利用は従業員満足度を上げる効果はありますが、「利用率が10%以下」「利用するのは元々健康意識が高い層だけ」というのが実態です。欠勤リスクの高い層がジムを利用していなければ、アブセンティーズムの改善にはつながりません。施策の対象と、実際にリスクが高い層がズレていないかをデータで確認する必要があります。
パターン3:「全社一律の健康施策」で済ませようとする
欠勤の原因は、部署・年齢層・職種・勤続年数によって大きく異なります。営業部門では精神的ストレスが主因、倉庫部門では腰痛が主因、といった違いがあるにもかかわらず、全社一律で同じ施策を導入しても、改善効果は限定的です。原因分析を通じて「どの属性に」「どの要因が」「どの程度」影響しているかを特定することで、施策の優先順位と対象を絞り込めます。
やってはいけないこと:原因分析を省略して「他社が成功した施策をそのまま導入する」ことです。業種・規模・年齢構成・職場環境が異なれば、欠勤の原因構造も異なります。他社事例はあくまで参考にとどめ、自社データに基づく判断を優先してください。
データ駆動でアブセンティーズムの原因を特定する6ステップ
アブセンティーズムの原因分析は、「データを集める→統合する→分析する→結果を読み解く」という流れで進めます。以下の6ステップを順に実行することで、感覚や推測ではなく、根拠に基づいた原因特定が可能になります。
手順1:分析に使うデータソースを洗い出す
原因分析の精度は「どれだけ多角的なデータを集められるか」で決まります。主なデータソースは以下の4層です。
| データ層 | 具体例 | 取得元 |
|---|---|---|
| 勤怠データ | 欠勤日数、遅刻・早退回数、有給取得パターン、残業時間 | 勤怠管理システム |
| 健康データ | 健康診断結果(BMI・血圧・血糖値等)、ストレスチェック結果 | 健診機関・ストレスチェック実施機関 |
| 業務環境データ | 部署・職種・勤続年数・役職・勤務形態(夜勤有無など) | 人事システム |
| サーベイデータ | 従業員満足度調査、エンゲージメントスコア、自己申告の健康状態 | 組織サーベイツール |
注意:個人情報保護の観点から、データの統合・分析は「個人が特定されない集計単位(部署別・属性別など)」で行うか、産業医や衛生委員会の管理のもとで実施する必要があります。従業員への事前説明と同意取得も必須です。
手順2:データを統合し、分析可能な状態に整える
収集した4層のデータを、共通のIDキー(匿名化した従業員番号など)で紐づけます。実務上のハードルになりやすいのは「データのフォーマットがバラバラ」「欠損値が多い」「取得期間が揃っていない」の3点です。いきなり高度な統計分析に進む前に、データクレンジング(欠損値の処理、外れ値の確認、期間の統一)を行い、信頼できるデータセットを作ることが重要です。
手順3:基本統計で全体像を把握する(記述統計分析)
まずは部署別・年齢層別・職種別にアブセンティーズムの平均日数を集計し、「どこに欠勤が集中しているか」のホットスポットを特定します。ここでは高度な分析は不要です。クロス集計と平均値比較だけでも、「特定の部署だけ欠勤率が突出して高い」「40代後半の管理職に休職が集中している」といった傾向が見えてきます。
手順4:要因間の関連性を統計的に検証する(相関・回帰分析)
手順3で見えたホットスポットについて、「何が欠勤日数と関連しているか」を統計的に検証します。たとえば「残業時間が月60時間を超えるグループは欠勤日数が有意に多い」「ストレスチェックの高ストレス判定者は翌年の休職率が3倍」といった関連性を、相関分析やロジスティック回帰分析で確認します。Excelでも基本的な回帰分析は可能ですが、変数が多い場合はPythonやRなどの統計ツールを使うと効率的です。
手順5:予測モデルで「将来の欠勤リスクが高い層」を特定する(機械学習の活用)
さらに踏み込んだ分析として、機械学習モデル(勾配ブースティング系のLightGBMやXGBoostなど)を用いて、「どの従業員属性が欠勤リスクに最も寄与しているか」を特定する手法があります。たとえば、勤怠データ・健康診断結果・ストレスチェック結果・業務環境データを入力として「翌四半期に5日以上の欠勤が発生するか」を予測するモデルを構築し、影響度の大きい変数(特徴量重要度)を確認します。
この手法の利点は「人間の思い込みでは見落としがちな要因の組み合わせ」を発見できることです。たとえば「残業時間が単独で多い」よりも「残業時間が多い+通勤時間が長い+BMIが高い」の組み合わせが欠勤リスクを大きく押し上げている、といった複合的な要因を把握できます。
注意:機械学習モデルの構築にはデータサイエンスの専門知識が必要です。社内にデータ分析の専門人材がいない場合は、手順3〜4の段階(記述統計+回帰分析)だけでも十分に有用な知見が得られます。「全社で機械学習を導入しなければならない」と考える必要はありません。
手順6:分析結果を「施策に落とし込める粒度」まで翻訳する
分析で得られた統計的な知見を、人事部門や経営層が「どの施策を、誰に対して、いつから実施するか」を判断できる形に翻訳します。具体的には以下の3点を明確にします。
- Who(対象):どの部署・属性にリスクが集中しているか
- What(要因):何が欠勤の主要因か(メンタル不調、身体的不調、業務負荷など)
- How much(規模):その要因による損失は年間いくらか(欠勤日数×人件費で換算)
この翻訳ステップを省略して「分析結果のレポートだけ提出して終わり」にすると、施策につながらないまま放置されるリスクがあります。
分析結果を活かす5つの実践アクション
原因分析の結果を施策に結びつけるには、「分析で分かったこと」と「具体的な打ち手」を1対1で対応させることが重要です。以下の5つのアクションは、ボディパレットが健康経営支援の現場で推奨している優先度の高い施策です。
アクション1:ハイリスク層への早期介入プログラムを設計する
分析で特定された「欠勤リスクが高い層」に対して、産業医面談やEAP(従業員支援プログラム)への優先的な誘導を行います。全社一律の施策ではなく、リスクスコアの高いグループに絞って重点的にリソースを配分することで、費用対効果を高められます。
アクション2:部署単位の業務負荷を可視化・調整する
特定部署に欠勤が集中している場合、業務量の偏りや慢性的な人員不足が背景にあるケースが多いです。残業時間の上限管理に加え、「この部署の1人あたり業務量は全社平均と比べてどの程度多いか」を数値で示し、人員配置の再検討や業務プロセスの見直しにつなげます。
アクション3:身体的不調への予防型アプローチを導入する
腰痛・肩こり・睡眠の質低下など身体的不調が欠勤要因として大きい場合は、運動習慣の定着支援が有効です。ただし、単に「ジムの法人契約を結ぶ」だけでは利用率が低く効果は限定的です。場所を問わず参加できるオンラインフィットネスセッションと、オフィスに訪問する対面セッションを組み合わせ、参加ログを自動取得して効果測定に活かせる仕組みが必要です。ボディパレットでは、こうしたオンライン+オンサイトのハイブリッド型運動プログラムを提供し、参加率と健康指標の変化を継続的にモニタリングしています。
アクション4:復職支援プログラムを「再発防止」まで拡張する
長期休職からの復職者は、復職後6ヶ月以内に再休職するリスクが高いことが知られています。復職時の「段階的な業務負荷の引き上げ」に加え、復職後3〜6ヶ月間の定期フォロー(産業医面談・サーベイ・上司との1on1)を制度化することで、再発リスクを低減できます。
アクション5:施策の効果を四半期ごとに検証し、PDCAを回す
施策導入後、3ヶ月単位でアブセンティーズムの数値(欠勤日数・休職発生率)を比較し、改善効果を定量的に確認します。効果が出ている施策は継続・拡大し、効果が見られない施策は原因を再分析して修正します。「一度導入したら終わり」ではなく、分析と施策をセットで繰り返す継続改善こそがアブセンティーズム対策の成否を分けます。
アブセンティーズム原因分析の注意点と落とし穴
データ駆動の原因分析は強力な手法ですが、以下の3点を押さえておかないと「分析したのに施策が的外れ」になりかねません。
注意点1:相関関係と因果関係を混同しない
「残業時間が多い人は欠勤も多い」というデータがあっても、「残業時間を減らせば欠勤が減る」とは限りません。残業時間の増加と欠勤の増加が、ともに「人員不足」という第三の要因から生じている可能性があります。相関分析の結果だけで施策を決めず、現場へのヒアリングや追加分析を組み合わせて因果関係を確認することが重要です。
注意点2:データの偏り・欠損に注意する
アブセンティーズムの測定において、有給休暇で処理された病欠は勤怠データに反映されません。経済産業省のガイドブックでも、有給休暇中の病欠を含まない場合はアブセンティーズムが過小評価される可能性が指摘されています。従業員アンケートを併用し、有給休暇を含む「健康上の理由による休み」の実態を把握することが推奨されます。
注意点3:個人の「犯人探し」にしない
原因分析の目的は「組織の健康課題を構造的に把握し、施策につなげる」ことであり、「誰が休みがちか」を個人単位で監視・評価することではありません。分析結果の取り扱いには個人情報保護法の遵守に加え、従業員への丁寧な説明が不可欠です。「データは個人を罰するためではなく、組織の環境を改善するために使う」という方針を明示し、衛生委員会や産業医の管理下で運用してください。
よくある質問(Q&A)
Q1. アブセンティーズムの原因分析は何人規模の企業から取り組めますか?
従業員50人以上の企業であれば取り組みが可能です。50人未満の場合はサンプル数が少なく統計的な分析が難しいため、まずは勤怠データの集計と簡易なクロス分析から始めることを推奨します。50人以上であれば、部署別・年齢層別の比較に十分な粒度が確保できます。
Q2. 原因分析に必要なデータがすべて揃っていない場合はどうすればよいですか?
最低限「勤怠データ(欠勤日数)」と「健康診断結果」の2つがあれば、基本的な分析は開始できます。ストレスチェック結果や従業員サーベイデータは精度を上げるために有効ですが、「データが完全に揃うまで着手しない」よりも「手元にあるデータで小さく始める」方が改善サイクルを早く回せます。
Q3. 機械学習の専門知識がなくても原因分析はできますか?
できます。本記事の6ステップのうち、手順3(記述統計)と手順4(回帰分析)まではExcelやGoogleスプレッドシートでも対応可能です。機械学習(手順5)はより精度の高い分析をしたい場合のオプションであり、必須ではありません。まずは基本統計で全体像を把握し、必要に応じて専門家の支援を受ける段階的なアプローチが現実的です。
Q4. アブセンティーズムの原因分析はどのくらいの頻度で実施すべきですか?
包括的な分析(6ステップすべて)は年1回、簡易モニタリング(欠勤日数の部署別集計と前期比較)は四半期に1回が目安です。施策を導入した直後は、3ヶ月後に効果検証のための分析を行い、改善が見られなければ原因の再分析と施策の修正を検討します。
Q5. 分析結果をもとにした施策で効果が出るまでどのくらいかかりますか?
施策の種類によって異なりますが、業務負荷の調整(残業削減・人員再配置)は3〜6ヶ月、運動プログラムやメンタルヘルス施策は6〜12ヶ月が効果発現の目安です。ボディパレットの導入事例では、モニタリング開始から6ヶ月時点で参加者の健康指標に改善傾向が確認されたケースがあります。短期的な数値改善を求めるよりも、12ヶ月単位で継続的にデータを取り続けることが重要です。
この記事の著者・監修
執筆:ボディパレット編集部(健康経営支援の企画・運用に携わるスタッフが執筆)
監修:髙瀬 雅弘(フラクタルワークアウト株式会社代表取締役 / ボディマネジメントパートナー)
最終更新日:2026年3月26日

