プレゼンティーイズムが「見えないリスク」と呼ばれる最大の理由は、従業員が出勤しているため勤怠データからは把握できず、本人も周囲も気づきにくい状態で生産性損失が静かに進行するためです。早期発見には「現場での兆候キャッチ」「可視化ツールによる定量把握」「データとサーベイの組み合わせ」という3層のアプローチが必要で、この仕組みを欠いたまま対策を検討しても効果は限定的です。
プレゼンティーイズム(presenteeism)とは、従業員が出勤しているにもかかわらず、身体的・精神的な健康上の問題によって本来のパフォーマンスを発揮できていない状態を指します。ボディパレットでは、この「見えない生産性損失」を健康経営の最優先課題と位置づけ、兆候の把握から可視化、改善施策までを一気通貫で支援しています。
この記事でわかること
- なぜプレゼンティーイズムは「見えないリスク」と呼ばれるのか(3つの構造的要因)
- 現場で早期にキャッチできる5つの兆候(マネージャー向けチェックポイント)
- 見えない不調を数値化する3つの可視化ツール(SPQ・WHO-HPQ・WFun)
- セルフ・マネジメント・組織の3層で構築する検知アプローチ
- 早期発見から早期介入につなげるための役割分担と運用設計
※この記事の内容は2026年4月時点の情報に基づいています。
この記事は、ボディパレット編集部が健康経営支援の現場知見をもとに執筆しています。
なぜプレゼンティーイズムは「見えないリスク」と呼ばれるのか
プレゼンティーイズムが「見えないリスク」と呼ばれる理由は、3つの構造的要因によって経営・人事担当者が気づける仕組みが働きにくいためです。欠勤や休職であれば勤怠データにそのまま現れますが、プレゼンティーイズムは出勤して業務を行っているため、データ上は「正常稼働」として記録されてしまいます。
理由1:勤怠データには現れないため「異常」として検知できない
プレゼンティーイズムは出勤している状態のため、勤怠システムや労務管理の通常の監視項目には引っかかりません。欠勤率・休職者数・残業時間などの指標では検知不可能で、企業が標準的に把握している人事データの枠外で損失が発生し続けます。経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック」でも、プレゼンティーイズムは健診受診率や有所見率と並ぶアウトカム指標として位置づけられており、専用の測定手段がなければ把握できない性質が示されています。
理由2:本人も「少し調子が悪い」程度の自覚しかないケースが多い
従業員本人がプレゼンティーイズムに陥っていても、「少し体調が悪い」「なんとなくだるい」といった軽度の自覚に留まることが多く、自己申告による把握が困難です。慢性的な肩こり・頭痛・睡眠の質低下・軽度のうつ症状などは日常の延長として受け止められやすく、「病気ではないから大丈夫」という認識で無理をしたまま働き続けます。結果として症状が慢性化し、気づいたときには長期休職(アブセンティーイズム)に移行しているケースも珍しくありません。
理由3:上司・同僚からも「いつも通り出勤している」ように見える
周囲からの観察でも、プレゼンティーイズムを早期に把握することは簡単ではありません。本人が無理をして通常通り振る舞えば、表面上は問題なく業務に取り組んでいるように映ります。リモートワークやハイブリッドワークが普及した環境では、画面越しでは微妙な表情の変化やエネルギーの低下が読み取りにくく、プレゼンティーイズムのサインを早期にキャッチする難易度はさらに上がっています。日本の「がまんの文化」──「迷惑をかけたくない」「休むと評価に響く」という意識──も、この見えにくさを助長する要因です。
横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科と産業医科大学産業生態科学研究所の共同研究(2025年)では、メンタル不調に起因するプレゼンティーイズムが日本企業全体にもたらす生産性損失は年間約7.6兆円と試算されており、これは日本のGDPの約1.1%に相当する規模です。研究は「生産性損失を抑えるには企業や行政による早期介入と支援体制の強化が必要」と結論づけています。
早期発見のための5つの兆候|マネージャーがチームでキャッチすべきサイン
プレゼンティーイズムの早期発見には、データでは現れない「日常の微細な変化」を現場のマネージャーがキャッチする仕組みが欠かせません。ボディパレットの支援現場で実際に観察される兆候を整理すると、5つのサインに集約できます。いずれも単独では判断が難しいため、複数のサインを重ねて観察することが重要です。
兆候1:表情・発言から活気が減っている
顔色がすぐれない、疲れた表情が続いている、会議での発言が減る、反応が鈍くなる──こうした変化は、心身の不調を押して働いているサインの典型例です。「気合が足りない」「モチベーションが下がっている」と片づけられやすいですが、背景に身体的・精神的な不調があるケースが少なくありません。
兆候2:ミスや納期遅延が増えている
普段はミスをしないメンバーのケアレスミスが増える、納期が後ろ倒しになる、作業時間が以前より長くかかる──こうした業務品質の変化は、集中力の低下や判断力の鈍化の現れです。1回限りであれば偶発的な要因ですが、2〜3週間続いている場合はプレゼンティーイズムを疑うサインになります。
兆候3:コミュニケーションが減っている
雑談への参加が減る、質問や相談の頻度が落ちる、1on1で会話が続かない──こうしたコミュニケーション量の変化は、心理的エネルギーの低下を示唆します。特にリモート環境では対面以上に目立ちにくいため、定期的な1on1やチャットの反応速度など、意識的に観察する仕組みが必要です。
兆候4:勤怠に微細な変化が出ている
欠勤には至らないものの、遅刻や早退の頻度が増える、有給休暇の取り方が断続的になる、始業時間ギリギリに出社する日が続く──こうした「欠勤未満の変化」も重要なサインです。勤怠ダッシュボードで遅刻・早退の月次推移を追うだけでも、傾向の変化をつかめます。
兆候5:姿勢・行動に身体的不調の兆しが出ている
肩や腰をさする仕草が増える、席から立ち上がる動作が重そう、オフィスでの移動時に表情が曇る──身体的不調の兆候は見た目に出やすいサインです。慢性的な肩こり・腰痛・眼精疲労は代表的なプレゼンティーイズム要因で、放置すると長期的な痛みや疾患につながります。
これらのサインは、月1回程度の頻度でチェックリスト化して観察・記録し、チーム内で共有することで早期フォローや対話のきっかけに活かせます。該当項目が多いほどプレゼンティーイズムのリスクが高まっていると判断できます。
「見えない不調」を数値化する3つの可視化ツール
現場での兆候キャッチに加え、定期的な測定ツールによる数値化がプレゼンティーイズムの可視化には不可欠です。ボディパレットの支援現場で多用される代表的な3つのツールについて、特徴と使い分けを整理します。いずれも経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック」で紹介されている測定手法です。
SPQ(東大1項目版)|最も手軽・健康経営取り組み法人の約3社に1社が採用
SPQ(Single-Item Presenteeism Question)は、東京大学で開発された1項目版の測定ツールです。「病気やケガがないときに発揮できる仕事の出来を100%として、過去4週間の自分の仕事をパーセンテージで評価する」という1つの設問だけで構成されており、従業員の回答負担が最も小さい手法です。損失割合は「100% − 回答値」で算出でき、日本人の平均は84.9%(損失割合15.1%)と報告されています。
健康経営に取り組む法人の約3社に1社がSPQを採用しており、健康経営度調査の回答データでも平均値との比較がしやすい点がメリットです。初めてプレゼンティーイズム測定に取り組む企業は、まずSPQから始めるケースが多く見られます。
WHO-HPQ|国際実績のある3設問式・中〜大規模企業向け
WHO-HPQ(WHO Health and Work Performance Questionnaire)は、世界保健機関が利用する国際的な測定ツールで、ハーバードメディカルスクールが開発・検証を行っています。3つの設問で構成され、「絶対的プレゼンティーイズム」と「相対的プレゼンティーイズム」の2つの指標を算出できます。国際比較や詳細な分析を行いたい場合に適しており、健康経営に取り組む法人の約5〜6社に1社が採用しています。
設問表現がやや難解なため、社内展開時にはアンケート文の補足説明や運用設計が必要です。
WFun|業種や年齢に左右されない客観的評価・産業医科大学開発
WFun(Work Functioning Impairment Scale)は、産業医科大学で開発された労働機能障害の測定尺度です。7つの設問で構成され、7〜35点のスコアで評価します。21点以上の場合は中程度以上の労働機能障害があると判断でき、性別・年齢・業種に影響されにくい設計が特徴です。健康情報を扱わないため、人事・総務部門でも扱いやすいメリットがあります。
選び方:目的とフェーズで使い分ける
初めてプレゼンティーイズム測定に取り組む企業は、回答負担が小さくベンチマークデータも得やすいSPQから始めるのが現実的です。すでに健康経営度調査に継続参加しており国際的なベンチマークも参照したい場合はWHO-HPQ、客観的な労働機能の把握を重視したい場合はWFunが適しています。いずれのツールも、年1回だけでは現状変化の把握が遅れるため、四半期または半期ごとの定期実施が推奨されます。
早期発見で活かせる3層の検知アプローチ
プレゼンティーイズムを「見える状態」に変えるには、セルフ(本人)・マネジメント(上司)・組織(データ)の3層で検知の仕組みを作ることが有効です。1層だけに依存すると見逃しが発生するため、3層が相互に補完する設計が理想です。
第1層:セルフチェック(本人による自己把握)
最も早期にプレゼンティーイズムを検知できるのは本人です。ただし、自覚症状が乏しいケースが多いため、気づきを促すセルフチェックの仕組みが必要です。具体的には、SPQなどの簡易測定を月次または四半期で実施し、スコアの推移を本人にフィードバックする方法、睡眠・運動・体調をセルフモニタリングできるアプリや健康記録ツールの提供などが有効です。セルフチェックの目的は「自覚を促すこと」にあり、数値をただ取るだけではなく、本人の行動変容につながるフィードバック設計が重要です。
第2層:マネジメントによる観察(上司・チームリーダー)
日々の業務の中でメンバーの変化にもっとも気づける立場にあるのが、現場のマネージャーや上長です。前章で挙げた5つの兆候をチェックリスト化し、月1回の頻度で意識的に観察することで、早期のフォローや対話のきっかけを作れます。特に1on1は、業務進捗の確認だけでなく、健康状態や働き方についても話題にする設計が有効です。
第3層:組織によるデータ把握(サーベイ・健康データ)
セルフとマネジメントで捕捉しきれない部分は、全社サーベイや健康データの分析で補完します。年1回のストレスチェックだけでは変化の把握が遅れるため、月次や四半期のパルスサーベイ、プレゼンティーイズム測定ツールの定期運用、健康診断データの経年変化、勤怠データの傾向分析などを組み合わせます。個人単位の把握だけでなく、部署別・役職別の集計によって組織単位のリスクを可視化できる点が、第3層の大きな役割です。
3層を組み合わせる理由
セルフだけに頼ると自覚のない従業員を取りこぼし、マネジメントだけに頼ると上長の観察スキルや時間的余裕に依存します。組織データだけに頼ると、個別の事情や職場の空気が反映されません。3層を組み合わせることで、見えないリスクを多面的に捕捉でき、データの裏付けと現場感覚の両方を活かした早期介入が可能になります。
早期介入までの仕組みづくり|現場・人事・経営層の役割分担
早期発見ができても、介入までのフローが設計されていなければ改善にはつながりません。検知から介入までの流れをスムーズにするには、現場マネージャー・人事・経営層の役割分担を明確にした運用設計が不可欠です。
現場マネージャー:一次キャッチと初動フォロー
現場マネージャーは、日々の観察でプレゼンティーイズムの兆候を一次キャッチする役割を担います。兆候が見られた場合は、1on1や短時間の面談で状況を聞き取り、業務負荷の調整や休暇の取得を促すのが第一歩です。初動で「休むことは組織への貢献である」というメッセージを本人に伝えることが、症状の深刻化を防ぎます。
人事:サーベイ運用と産業保健との連携
人事部門は、プレゼンティーイズム測定ツールの運用、サーベイ結果の分析、産業医や外部相談窓口との連携窓口を担います。測定結果を部署別・職種別に集計し、ホットスポットを特定することも重要な役割です。現場マネージャーが一次キャッチした事例のうち、専門的ケアが必要なものを産業医・EAP(外部カウンセリング)へ橋渡しする導線を整えます。
経営層:メッセージ発信と経営指標への組み込み
経営層は、プレゼンティーイズム対策を経営課題として位置づけ、全社へメッセージを発信する役割を担います。「健康は経営の重要資源である」「不調を申告することにペナルティはない」といった明確な発信が、がまんの文化を緩和し、早期発見を促す組織風土を作ります。また、プレゼンティーイズム指標を健康経営のKPIとして経営会議に組み込むことで、継続的な改善サイクルを回せるようになります。
見えないリスクを「見える状態」に変えるためのボディパレットのアプローチ
ボディパレットでは、プレゼンティーイズムという「見えないリスク」を可視化するために、健康動態モニタリング・運動プログラム・伴走支援の3つを組み合わせた健康経営サービスを提供しています。検知の仕組みづくりから介入までを一気通貫で支援できる点が、自社のみで運用するケースとの大きな違いです。
毎月の健康動態モニタリングで兆候を定量化
毎月実施する健康動態モニタリング(サーベイ)により、部署単位の健康状態を継続的に可視化します。従業員一人ひとりの運動習慣の有無・継続状況に加え、部署ごとの傾向も把握でき、どの組織でリスクが高まっているかを早期に特定できます。サーベイ結果はワンクリックでレポート出力でき、人事担当者の運用負担を抑えながら定期的なモニタリングが可能です。
ピラティス・ヨガなど豊富なオンラインプログラムで身体的不調に介入
ボディパレットのオンラインプログラムでは、ピラティス・ヨガ・ストレッチなどの運動プログラムを1名あたり月額550円(税込)から提供しています。肩こり・腰痛・眼精疲労といった身体的不調は、プレゼンティーイズムの代表的な原因の一つで、適切な運動介入によって改善が期待できます。継続率98.1%(自社調べ)という実績が示すように、従業員が無理なく続けられる設計になっています。
オンサイトセッションで対面機会を通じた行動変容を促す
オンサイトセッション(50分50,000円〜)では、企業訪問型で対面の運動指導やセミナーを実施します。対面ならではの行動変容効果と、同僚との共通体験による社内コミュニケーション活性化が、見えないリスクへの介入策として機能します。
よくある質問(Q&A)
Q. プレゼンティーイズムは本当に勤怠データで把握できないのですか?
A. 欠勤や休職として現れていないため、通常の勤怠データでは直接把握できません。ただし、遅刻・早退の頻度、有給休暇の断続的な取得、月末の休暇偏重などの微細なパターンを追うことで、間接的なシグナルを捉えることは可能です。いずれにしても、専用の測定ツール(SPQ・WHO-HPQなど)とサーベイを組み合わせなければ、プレゼンティーイズムそのものは定量化できません。ボディパレットでは、勤怠データに加えて健康動態モニタリングを組み合わせた可視化の仕組みを提供しています。
Q. 小規模な会社ですが、専門ツールの導入は難しいです。簡易的に始める方法はありますか?
A. あります。SPQ(東大1項目版)は1つの設問のみで測定でき、研究目的・商用目的ともに無料で利用できるため、Googleフォームなどの無料ツールでも実施可能です。まずはSPQで四半期ごとに全社の平均値を把握し、日本人平均84.9%との差分を見ることから始めるのが現実的です。スコアが平均より低い場合は、部署別の集計や1on1での聞き取りに進めばよいでしょう。
Q. マネージャーが兆候をキャッチしても、本人が「問題ない」と言う場合はどうすればいいですか?
A. 無理に踏み込まず、選択肢を提示することが重要です。「何かあれば話を聞く」「産業医面談や外部相談窓口も使える」と伝え、本人のタイミングで活用できる状態を作ります。同時に、業務負荷の調整や休暇取得の推奨など、本人が申告しなくても実行できる配慮を行います。本人の自覚が乏しいケースでは、SPQなどの測定ツールでスコアをフィードバックすることで気づきが促されることもあります。
Q. リモートワーク環境では兆候が見えにくいと聞きますが、何に注意すべきですか?
A. リモート環境では、対面観察に代わる仕組みを意識的に作る必要があります。具体的には、1on1の頻度を上げる(月1回→隔週)、ビデオオンでの短いチェックイン時間を設ける、チャットの反応速度やミーティング中の発言量を定点観測する、月次のパルスサーベイを実施する、などが有効です。画面越しでは微妙な表情やエネルギー低下が読み取りにくいため、定量データと定性的な対話を両輪で運用することがポイントです。
Q. 可視化はできたのですが、介入につながりません。どこから着手すべきでしょうか?
A. 可視化ができている状態は、介入の土台が整っている状態です。次のステップは、「何を改善すべきか」の優先順位づけと、改善アクションの実行体制づくりです。身体的不調(肩こり・腰痛など)が多い場合は運動プログラムが即効性のある施策になりますし、メンタル不調が多い場合はストレスチェックの詳細分析と産業医連携が中心になります。ボディパレットでは、モニタリング結果をもとに次に取るべきアクションまで提案する伴走支援を提供しており、「可視化はできたが次が進まない」状態を解消する設計になっています。
この記事の著者・監修
執筆:ボディパレット編集部(健康経営支援の企画・運用に携わるスタッフが執筆)
監修:髙瀬 雅弘(フラクタルワークアウト株式会社代表取締役 / ボディマネジメントパートナー)
最終更新日:2026年4月23日

